酵母を入れないパン

論壇:         酵母を入れないパン      6/23/2019

過越祭のメインディッシュは小羊の肉、酵母を入れないパン、苦菜です。この三品にはそれぞれ意味があります。傷のない1歳の小羊は主の過越のため無垢の犠牲が献げられたことを意味します。酵母を入れないパンは急いでエジプトを脱出するため、酵母で発酵させる時間がなかったことを表します。苦菜はエジプトでの苦しかった奴隷生活を思い出すためです。

出エジプト記の12章には「酵母入りのパンを食べた者は共同体から断たれる」という厳しい命令があり、「酵母」という言葉が何と13回も登場します。それほどまでに酵母入りのパンが禁止されたのはなぜでしょうか。

古代のパンは小麦粉を単に水で練って焼き上げたものでとても硬く、現在のパンとはまるで異なるものでした。これを進化させたのが古代エジプト人でした。彼らは小麦粉を水で練ってパン生地を作りますが、自然発酵によってふくれた捏粉(こねこ)を取っておいて、次回に生地を捏(こ)ねる時に「パン種」として用いました。すると発酵作用が全体にわたってふっくらとしたパンが焼き上がるのです。

小麦粉は捏ねることでグルテンが出来、さらにこれを発酵させて天然酵母ができます。ふんわりとしたパンの食感は、発酵によってもたらされます。酵母がパンの生地に含まれる糖を餌に成長し、アルコールと炭酸ガスを発生させ、この作用でパンは膨らむのです。しかしこの発酵作用は素材をすぐに腐敗させます。せんべいと菓子パンのどちらが長持ちするかを考えればこのことはよく分かります。

酵母入りのパンは時間をかけて作らねばなりません。またすぐに腐敗することから贅沢品と解釈されます。さらに発酵過程は腐敗と見なされて悪い意味になり、それがパウロの言う「古いパン種や、悪意と邪悪のパン種を用いないで、パン種の入っていない純粋で真実のパンで過越祭を祝おう」(Ⅰコリント5:8)という警告になります。イエスも「ファリサイ派とサドカイ派の人々のパン種によく注意しなさい」と言われました。これは「わずかなパン種が練り粉全体を膨らませる」(ガラテヤ5:9)ことの悪い点を指摘したものです。

エジプトでの貧しい奴隷生活では豊富なメニューの食事など考えられなかったでしょう。せめてパンをおいしくいただくために、様々な酵母を用いてふっくらとしたパンを焼く技術は相当に発達したことでしょう。それはエジプトを象徴する食べ物です。イスラエルはエジプトを脱出する今、非日常生活に突入するにあたって、まずパンの変化によって、自分たちの世界が昨日とは全く変わってしまったことを実感させられたのです。

 

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