神の時間とキリストの誕生

論壇:       神の時間とキリストの誕生      12/8/2019

旧約聖書が描く歴史では大きな時間的断絶が4つあります。第1はノアの洪水後の系図で、ノアの三人の息子からアブラハムに至るまでの系図が創世記11章にしるされていますが、これは取捨選択して描かれた系図ですから、合計の年数、ノアからアブラハムまで何百年なのか何千年なのか分かりません。イエス・キリストの系図(マタイ1:1-17)はアブラハムからスタートしています。

第2は、イスラエルがエジプトに滞在していた430年間(出エジプト記12:40)です。「ヨセフのことを知らない新しい王」(出エジプト記1:8)によってイスラエルが奴隷になった時代から、モーセが登場するまでのことは、イスラエルがおびただしい人数に増えたことしか書かれていません。

第3は士師時代です。モーセの後継者ヨシュアの指導によってイスラエルはカナンに侵入しますが、ヨシュアの死後「主に背く時代」が興ってからの、士師記に登場する士師たちの在位期間を単純に合計すると約320年ですが、それぞれの数字は象徴的なものであって計算の根拠にはなりません。従って最後の士師サムエルによって初代の王サウルが即位する(1012年?)までの期間を総括すると「そのころ、イスラエルには王がなく、それぞれ自分の目に正しいとすることを行っていた」(士師記17:6、18:1、19:1、21:25)という混乱の時代でした。サウル、ダビデ後の時代は年代がかなり正確に特定できる時代です。

第4は、旧約聖書の最後マラキ書から新約聖書に至る空白の数百年間です。世界の覇権がバビロンからペルシャに移り、バビロン捕囚から帰国した人々によって第二神殿が完成したのがBC515年、ネヘミヤの改革が445年頃、ギリシャのアレキサンダー大王がペルシャのペルセポリスを陥落したのが330年です。

バビロン時代のことはダニエル書によって、ペルシャ時代のことはエステル記によっていくらかの情報は分かり ますが、洗礼者ヨハネの登場まで預言は途絶えていました。この期間についてのイスラエルの歴史は「旧約聖書続編」とこの世の歴史資料で考察されます。そして世界の覇権はアレキサンダー死後、大きな混乱の中でついにローマの支配に至ります。

パックス・ロマーナ(ローマの平和)の中で、福音が世界に伝えられるための道路が完備し、キリスト教の真理が正確に伝わるために必要な公用語、ギリシャ語が世界中で通用する時代になった時、すなわち神様が諸条件を備えられたあの時代に「時満ちて」キリストは誕生したのです。聖書が描く歴史は「信仰によって解釈された歴史」なのです。

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