ペリシテ

論壇:          ペリシテ         7/5/2020
改革派神学研修所の旧約聖書学では、1年生の学期末試験で、このような問題が出ます。「イスラエルに影響を与えた大帝国の名を歴史順に述べ、イスラエルとの関係を簡略に述べよ」。 答えは下記のとおりです。
エジプト:奴隷として売られたヨセフがエジプトの宰相になり、飢饉の時
ヤコブ一家がエジプトに避難。その後のモーセによる出エジプト。
アッシリア:イスラエル北王国滅ぶ(BC722年)。失われた10部族。
バビロニア:南王国ユダ滅ぶ(BC587年)。バビロン捕囚。
ペルシャ:バビロニアを破ったキュロス王の勅令(BC538年)で、
捕囚のユダヤ人たち帰国。神殿再建(BC515年)。
ギリシャ:アレキサンダー、パレスティナ占領(BC333年)。
ペルセポリス陥落、ペルシャ帝国滅亡(BC330年)。
ローマ:ポンペイウス、エルサレム占領(BC63年)。

これらの他に忘れてならないのが、ペリシテ民族です。この古代海洋民族はBC13世紀頃、エーゲ海から侵入しパレスティナの海岸平野部に定着。「五人のペリシテ人領主の治めるガザ、アシュドド、アシュケロン、ガト、エクロン」(ヨシュア記13:3)の五都市連合王国を築きました。士師記ではサムソンがペリシテ人と戦っています(13~16章)。
サムエル記上ではペリシテ人に神の箱が奪われ(4~5章)、五人の領主が金のねずみによって賠償しています(6:17)。イスラエル初代の王サウルはペリシテ戦で戦死しました(31章)。サムエル記下ではダビデも「すべてのペリシテ人が、ダビデの命をねらって攻め上って」来る(下5:17)最大の決戦で苦戦しますが、ついに大局において勝利し、後のペリシテ戦は小規模なものになります。
本日のテキストではダビデがペリシ戦に当たって「主に託宣を求めると」、神様は細かい戦術方法を指示され、ダビデは大勝利を与えられます。しかしこれ以降、神様はもう戦争に介入されません。奇跡も起こりません。その意味でイスラエルはこの時点から、神から自立して戦うという自己責任の大人として扱われ、人間的な戦いだけの叙述となります。つまりサムエル記はここを分水嶺のようにして、神様が直接的に戦争に介入されるそれまでの歴史と、「この世の歴史」とが区別されているかのようです。
ペリシテ人はアレキサンダーによるパレスティナ占領によってヘレニズム化され、民族としてのアイデンティティを失っていったのでしょう。歴史上から消え去りました。現代でもガザなどの町名は残っており、パレスティナ自治区の中心都市で、いつもイスラエルと武力衝突しています。

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