ヨハネの手紙1、緒論2

論壇:       ヨハネの手紙、緒論2      11/25/2018

初期キリスト教会は、ユダヤ人たちから攻撃を受け、後にはローマ帝国から迫害を受けました。ユダヤ人たちからの攻撃については、使徒言行録に詳しく書かれています。初期にはステファノの殉教をきっかけにした大迫害がありました(8:1)。パウロの宣教旅行の最中では、パウロたちを妬んだユダヤ人たちの迫害が記されています(17:5~13)。

しかしもっとやっかいな問題だったのは、外から教会の内側に入り込んで来た異端の教えでした。パウロは「私が去った後に、残忍な狼があなたがたのところへ入り込んで来て群れを荒らす」(使徒言行録20:29)と警告しています。この狼は様々に異なった思想の形で現れました。その一つの形が初期グノーシスという形です。

11月11日の論壇で、ヨハネの手紙の執筆事情と背景について、グノーシス主義という思想を紹介しました。これはローマ帝国で2~3世紀に発展した、知識の概念を中心とする一つの思想運動です。キリスト教グノーシス主義者たちは、自分たちを「真のキリスト者」と称したのでややこしくなりました。彼らは「自分たちこそ、キリストが幾人かの特別な弟子たちにしか伝えなかった、優越せる知識の相続人にして保持者なのだ」と主張したのです。このエリート意識に対して、教会は激しい非難を浴びせました。キリスト教は万人のための宗教なのに、グノーシス主義者たちは、選ばれた者たちだけの宗教だと主張したからです。

この思想が最盛期を迎えるのは2~3世紀で、この間に教父たちの反駁文書も多く書かれ、両者の論争の文書が残っています。特に1945年、エジプトのナグハマディという村から、2世紀頃書かれた大量のパピルス文書が発見され、カイロのコプト博物館に保管されており、死海写本につぐ重要性を持つと評価されています。グノーシスの主張と教父たちの反論を見比べると、初代教会がどのような教えをしていたかということと、教会の様子が分かるのです。ナグハマディ文書の中に2~3世紀頃書かれた『トマスによる福音書』という偽作は、日本語にも訳され読むことができます(講談社学術文庫)。

新約聖書にはまだはっきりとした形でのグノーシスは現れてはいないと言われますが、その初期の異端は、肉の復活を否定し、「復活はもう(霊において)起こった」(Ⅱテモテ2:18)と言いました。「キリストが肉となって来られた」ことを否定する「反キリスト」「人を惑わす者」「偽預言者」(ヨハネの手紙Ⅰ、4:2、3)たちもグノーシスの初期的な形なのでしょう。教会はこれらの異端と戦うことによって、二性一人格、三位一体などの重要教理を確定していったのです。

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