バベルの塔

論壇:        バベルの塔          3/3/2019

バベルという町を建てたのはニムロドです(創世記10:10)。ニムロドとはユダヤ人たちがつけたあだ名で、その意味は「我々は反乱しよう」です。支配されている者が圧政者に向かって「反乱しよう」と言うのではなく王が言うのですから、これは人間たちが「我々は神なしでやっていこう」という、神への反乱を呼びかけている言葉です。(詳しくは拙著『旧約聖書の歴史』ニムロドのごとし)。

バベルの塔建設の目的は「全地に散らされることのないように」(11:4)ですが、これは「産めよ、増えよ、地に満ちて(広がって)地を従わせよ」(1:28)という神の命令に背くものでした。ユダヤ人歴史家ヨセフス(AD37-100年)は、塔建設目的を次のように解釈します。「もし神が再び地を洪水で覆うつもりなら、水が達しないような高い塔を建てて、父祖たちの滅亡の復讐をする」(『ユダヤ古代誌』1-4-2)。これは大変おもしろい解釈ですが、「神は洪水によって地を滅ぼすことは決してない」(創世記9:11)とおっしゃったのですから、洪水の恐怖だけが子孫に伝わったと考えたのでしょうか。

さてバベルの塔は自分たちの威光、軍事力(団結の力)、経済力を誇るもので、宗教団体が人を驚かせるような豪華な建物を建てたり、県庁や市庁舎の建物の高さを競うのは同じ動機からです。結局、自分たちは偉いのだと自慢したい訳です。

ところでEU(欧州連合)の二つある本部ビルの内フランス、ストラスブールのメインタワー「ルイーズ・ワイス」はブリューゲル(1530頃-1569年)が書いたバベルの塔のイメージで建てられました。なぜこの設計にしたのか、二つの解釈があると言われます。一つはバベルの塔の二の舞にならないよう一致団結しよう。

もう一つは、聖書が言うとおり、EUも失敗するだろうという皮肉です。

さてこの建物に付けられた女性名Louise Weiss(1893-1983年)はフランスのジャーナリスト、人権活動家で、「ヨーロッパの偉大なおばあちゃん」と親しみをこめて呼ばれています。彼女はナチスと戦い、女性参政権のために戦い、ヨーロッパ全体を舞台に活動した女傑でした。

ブリューゲル作 バベルの塔

 

EUのルイーズ・ワイス・タワー

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