論壇: 『デイオグネトスへ』 5/31/2020
先週の説教で表記の本を紹介し、一節を引用して朗読しました。聞きなれない書名でしたので、礼拝後ある方からこの本について質問されましたので、「デイオグネトスへの書簡」と呼ばれるこの短い本をご紹介します。
1436年頃イタリアの若い聖職者が魚屋に入ったところ、包装紙として使われていたかなり古い写本に興味を持ち、安く購入しました。全部で22の文書がありましたが、その内の第1~5片は、3世紀から5世紀の作品であることが分かりました。著者は不明です。この貴重な写本は1793年にストラスブールの市立図書館に納められましたが、1870年にドイツ軍の攻撃で焼失してしまいました。しかしそれまでに多くの学者の研究の手を経てコピーも作られ、1843年に出版されました。
書簡の内容は下記の8つの信者の質問に答える形になっています。
1、キリスト信者の神とはどのようなものか
2、キリスト信者の礼拝はどのようなものか
3、キリスト信者はなぜこの世を軽視するのか
4、キリスト信者はなぜ死を恐れないのか
5、キリスト信者はなぜ異邦人の神々を礼拝しないのか
6、キリスト信者はなぜユダヤ教の儀式を守らないのか
7、キリスト信者はなぜ互いに愛し合うのか
8、キリスト教はなぜそれほど遅くこの世に現れたのか
有名になった5、6章の一文を紹介します。
「キリスト信者は住所、言語、習慣で他の人たちと異なっているわけではありません。独自な都市に住み、独特な言葉を使い、変わった生活を送っているのでもありません。…彼らはすばらしい、実に珍しい感嘆すべき生活方法を示しています。彼らは自分の国にいてもただ寄留人として住んでいます。…彼らにとってはどの外国も故国、どの故国も外国なのです。…肉体をもって生活するとはいえ、肉に従って生きてはいません。地上に日々の生活を送るとはいえ、天上の市民なのです。…彼らは貧しい人たちですが、大勢の人を豊かにします。何一つ持たないようで、すべてのものを持っています。」「一言で申しますと、この世の中にいるキリスト信者は、肉体の中にある霊魂のような役割を果たしています。…霊魂が体に住んでいても体のものではないように、キリスト信者はこの世に住んでいながらこの世のものではありません。…肉体は霊魂を憎んで戦います。霊魂は肉体が快楽にふけることを禁じるからです。世間もなんの不正もしないキリスト信者を憎みます。信者が世間の快楽に反対するからです。霊魂が自分を憎む肉体を愛するように、信者は自分を憎む人々を愛します。」