黙示文学とヨハネの黙示録

論壇       黙示文学とヨハネの黙示録     3/6/2022

『黙示録』はBC2世紀頃~AD2世紀頃、ユダヤ人の中で流行した「黙示文学」の作風を用いて書かれた預言書です。旧約聖書の『ダニエル書』と雰囲気が似ています。なぜこのような文学様式が出てきたのでしょうか。

BC168年、シリアのアンテイオコス4世はエルサレム神殿に侵略してゼウスの神像を立て、ユダヤ教を禁止しました。このためマカバイ戦争が起き、ユダヤのハスモン王朝はBC142年に独立自治を獲得します。しかしこの王朝は堕落し、内紛に介入したローマによってユダヤはBC63年に占領され、度々の対ローマ反乱戦争の失敗の後、ついにエルサレムは炎上陥落してしまいます(AD70年)。

黙示文学は「神の国」が実現しない現実の中で、「義人が苦しみを受けるのはなぜか」という「神義論」が大きな神学的テーマです。信仰を失いそうなユダヤ人たちを励まし、「神は沈黙しておられるのではない。このような歴史計画を持っておられる」と希望を与えるために書かれました。

その特徴は色々ありますが、まず「現在と未来」を明確に分けて述べます。「今の世は悪が支配する世」だが、「来るべき世は神の国が実現する輝かしい世」と希望を与えます。また神の歴史支配の舞台裏を覗き、「何週が定められている」と歴史の経過を教えます。「3年半(完全数7の半分)待てば新しい歴史が始まる」と神の国の到来を待ち望む希望を与えます。また様々な数字的、文学的、絵画的な象徴が多く用いられます。

聖書には「色」の記載はほとんどありません。「青い空と緑の野」などという記述はありません。例外的に出エジプト記には「幕屋」について、「青、紫、緋色の毛糸…赤く染めた雄羊の毛皮」の記述があります。アブラハム、ヤコブ、ダビデが何色の服を着ていたか全くわかりません。風景も人物もモノトーンの世界です。

イエスは「野の花」について言及されましたが、それが何色だったかは分かりません。イスラエルでは「花」といえば真っ赤なアネモネですから言う必要がなかったのでしょう。ナホム書の「勇士の盾は赤く、戦士は緋色の服」は戦いの血で染まった描写です。最大の例外はエステル記で、宴会の描写には「純白、紅白、紫、緑、金、銀」が登場しますが、これは異教徒の宴会風景だからです。

しかし「ヨハネの黙示録」には色の描写が多用されていて、絵に描いたように印象深く訴えようとしていることが分かります。「金、雪、炎、真鍮、太陽、燭台、碧玉、赤めのう、エメラルド、水晶、(白・赤・黒・青白の)馬、紫、真珠、緑柱石、サファイア、ひすい、透き通ったガラスのような純金、輝く明けの明星」などです。

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