ヨハネ福音書 1

論壇:       ヨハネ福音書 1        7/25/2021

今年の3月から水曜日の祈祷会でヨハネ福音書の連続講解を始めました。ヨハネ福音書は共観福音書(マタイ、マルコ、ルカ)とは全く異なる構成です。様々な特色がありますが、ヨハネ独自の記事が多く、共観福音書との平行記事が少ないことが第1にあげられます。

第2は福音書全体の構成です。共観福音書に共通する文章構造は、イエスのガリラヤでの宣教活動をスタートに、エルサレム上りへの道中でのエピソード、終点のエルサレムで十字架にかかり復活したという「旅日記」スタイルですから、イエスのエルサレム詣では1回だけという構成になっています。それに比べるとヨハネ福音書ではイエスは何度も、ユダヤ教の祭りのたびごとにエルサレム神殿に行っています(2:13、5:1、7:10、10:22、12:12)。ここからイエスの公生涯は約3年と言われるようになりました。

ヨハネ福音書全体は大きく前半後半と二分できます。前半は「しるしの書」(1~12章)で、7つの奇跡はここに集約されています。①水がぶどう酒に変わる(2章)、②役人の息子を癒す(4章)、③ベトザタ池で病人を癒す(5章)、④5000人給食(6章)、⑤ガリラヤ湖で水の上を歩く、⑥生まれつきの盲人を癒す(9章)、⑦ラザロを蘇らせる(11章)。後半は「受難と栄光の書」(13~終)です。

今回私が注目しているのは、共観福音書にはイエスの多くの奇跡が書かれているのに、ヨハネ福音書では7つのみに絞っていることです。さらにこの中の4つはヨハネ独自の記事なのです(上記の7つの奇跡の中のアンダーライン)。この選択の意思決定は何によるのでしょうか。

ヨハネ福音書は紀元100年頃に書かれました。もうこの時までに新約聖書のほとんどの巻は流通していました。共観福音書は紀元60~70年頃には出版されていましたから、ヨハネはこれらを全部読んだ上で、自分の福音書を書きました。ですからイエスの奇跡について多くの読者が知っているという状況の中で7つの奇跡に絞ったのです。さらに共観福音書になかった事件を4つ入れたのですから、これらはヨハネにとって特別に思い出深い出来事だったのでしょう。

私が注目するのは、ヨハネとイエスの母マリアとの関係です。ヨハネは十字架上のイエスからマリアの老後の世話をするように頼まれていますから(19:26、27)、12使徒の中ではマリアとの生活時間が最も長く、思い出話を最も多く聞かされたのでしょう。4つの奇跡の現場にはマリアもいたと考えると、ヨハネの意図が分かるかもしれません。

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