読書紹介、カミュ著『ペスト』 

論壇:     読書紹介、カミュ著『ペスト』   4/5/2020
コロナウイルス蔓延下でふと思いついて,50年も前に読んだ『ペスト』〔著者カミュ(1913-1960年)〕を書架の奥から引っ張り出して読み返しました。茶色に変色した奥付には「昭和44年発行、45年3月二刷」とあります。著者カミュは『異邦人』でデビューし(1942年)、『ペスト』(1947年)などによって、44歳でノーベル文学賞に輝きます。カミュは大戦後のフランスでキリスト教の神の救いと、共産主義の徹底的合理主義のどちらも拒否する第3の立場を取ります。47歳の若さで、自動車事故で即死しました。
この小説は、大戦後の1940年代、フランス領アルジェリアのオランという港町が舞台です。ある年の春、どこからとなくペストが忍び寄りますが、その兆候は、死んだ鼠が大量に道路に現れるという印象的な書き出しです。蚤によってペストが拡散されたのです。
1年以上にわたって町が封鎖され、疫病が猛威を振るう中、様々な立場の市民たちは封鎖された中で「追放者」として大量に死んで行きます。主人公の医師リウーたちは懸命にこの病魔と闘うがなすすべもない。極限状況の中で人間内部の悪徳や弱さ本質が暴露されていきます。ペストの初期、リウーの訪問はすがりつくような好意で迎えられますが、後期になると彼の訪問は疫病神と恐れられます。なぜなら彼がペストの診断書にサインすると直ちに警官が病人を隔離し、二度と面会できず、隔離された者は決して帰ることがないからです。
カミュは無神論者ですが、犠牲者の側に与した善意の証言者という立場で物語ります。私の評価ではこの世の不条理を相手に戦う模範的ヒューマニスト(博愛主義者)ということになるでしょう。
キリスト教(カトリック)に対する批判めいたものも語られます。疫病の初期には教会のミサに人があふれます。神父パヌルーは「ペストは神からの刑罰と警告である。悔い改めて神に赦しを求めて祈ろう。必ず救いは来る。」と説教するのですが、後期になると「神のみ心がどこにあるか我々には分からない。どんな時でも善をなそうと努めよう。神を愛することと神を憎むこと、我々はどちらかを選択できるだろうか。もちろん神を愛する選択しかできないのだ」と変化します。この神父は物語の末にペストで死んでしまいます。
現代のキリスト教界はどのようにコロナウイルスについて説教しているでしょうか。カミュが批判したように「神の怒りの現れだ」とか「ただひざまづいて悔い改めよ」「伝道のチャンスだ」では困ります。私たちはこの世で、神様から善いものも悪いものもいただくのです(ヨブ2:10)。「罪の支払う報酬は死」(ローマ書6:23)で、その死に方は神様だけに決定権があります。このことをしっかりわきまえた上で、しかし各自に与えられた賜物を用いて病魔と戦うのです。それはカミュのヒューマニズムからではなく、神への奉仕と隣人愛にもとづくものです。それはまたサタンへの戦いでもあります。私たちは泣く者と共に泣き、加害者にならないように最大限の配慮をするのです。

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