ルツ記解題

論壇:          ルツ記解題         2/16/2020
旧約聖書の中で最も美しい物語の小品と呼ばれるルツ記は、いつ頃の作品でしょうか。それは最初と最後の言葉で分かります。「士師が世を治めていたころ」(1:1)は、「今は王が治めている」を前提にしています。また「エッサイにはダビデが生まれた」(4:22)というのですからダビデ時代以後だと分かります。
主人公のルツはユダヤ人ではなく「モアブの女」(1:4)と最初に紹介されます。しかしその後に言及されるときはただ「ルツは」といえば良いのに、必ず「モアブ生まれの」「モアブの娘」「モアブの女」「モアブの婦人」という形容詞が付けられます。
モアブの語源はモ(~から)アブ(父)、つまり父の種から子孫をなしたロトの娘たちに由来します。それでイスラエルからは近親憎悪的に嫌われた民族でした。「アンモン人とモアブ人は主の会衆に加わることはできない。十代目になっても決して主の会衆に加わることはできない」(申命記23:4)と厳しく交際が禁じられました。
それなのにダビデの家系にルツは入り、イエスの家系にも入っています(マタイ1:5)。これは聖書の矛盾なのか、時代性なのか、バランス感覚なのか、判断に苦しむところです。私たちは聖書を読むとき、そこで何が強調され、教えられているのかを、自分の文学的常識を働かせて読まねばなりません。
士師が世を治めていた時代から数百年後、バビロン捕囚から帰国した民は神殿を再建し(BC515年)、総督ネヘミヤは城壁を再建します(445頃)。
バビロンから帰国した学者エズラと総督ネヘミヤは断固とした宗教改革を行いますが、その最も厳しい改革は「異民族の妻子との徹底的な絶縁」で、異民族と結婚していた多くの家庭は強制的に離婚させられました(エズラ記10章、ネヘミヤ記13:1-3)。
現代でも保守的なキリスト教会では、教会員はクリスチャンでない者と結婚してはならないと教えます。彼らは「あなたがたは、信仰のない人々と一緒に不釣り合いな軛につながれてはなりません」(Ⅱコリント6:14)を証拠聖句として引用しますが、パウロはこれを結婚の条件として教えているのではありません。パウロの伝道旅行に同行して良い働きをしたテモテの父はギリシャ人、母はユダヤ人でした(使徒言行録16:1)。
聖書は字面だけを平面的に読んで、現代にそのまま適応すべきではありません。ルツ記は異民族にまで及ぶ神の慈しみを豊かに描く作品ですから「御翼のもとに逃れて来る」あらゆる人は人種に関係なく救われる、という神の憐みのすばらしさを賛美することが求められているのです。

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