ペトロの旧約聖書引用

論壇:       ペトロの旧約聖書引用       9/2/2018

ペトロの手紙1を6月3日から9回連続講解して、来週で終わります。第2の手紙は5~6回ほどで終わります。7月29日の論壇「ペトロの素朴な信仰」で、パウロとペトロでは、旧約聖書の引用の方法が異なるということを書きました。その関連で本日は、昔から解釈困難と言われている箇所、ペトロが旧約聖書を引用している箇所の問題を再び取り上げます。

①「霊においてキリストは、捕らわれていた霊たちのところへ行って宣教されました。…」(1、3:19-21)。これは8月5日に説教しました。

「悪霊たちは陰府(または黄泉)に閉じ込められている」という説明は、旧約聖書には直接的言及はありません。旧約聖書外典『エノク書』の堕天使の説明に出てきます。これは旧約聖書の「ミドラシュ」(解説物語)で、ユダヤ人たちの間で語り継がれていたものです。イエスも当時の人々のこの一般常識に基づいて「呪われた者ども、私から離れ去り、悪魔とその手下のために用意してある永遠の火に入れ」(マタイ25:41)という例え話をされました。当時の世界観では、世界は天上、空中、地、水の下、そして地の底(地獄)という4または5層の構造と考えられていました。この最下層へキリストが降りて行って、勝利の宣言をされたということです。使徒信条ではこれを「陰府にくだり」と表現しました。キリストの十字架の勝利による効果の範囲は、あらゆる世界にくまなく宣言されたといいたいのです。

②「神は、罪を犯した天使たちを容赦せず、暗闇という縄で縛って地獄に引き渡し、裁きのために閉じ込められました」(2、2:4)。

旧約聖書に書かれていない事柄を、ペトロは誰から、何から、どのようにして教えられたのでしょうか。またこれとは別に、作者不祥の『ユダの手紙』では「大天使ミカエルは、モーセの遺体のことで悪魔と言い争ったとき、…」(9)とあります。これも旧訳聖書には出てきません。

実はユダヤ人たちの文学知識と一般教養は、相当複雑で広いものがあったのです。聖書以外にも外典、偽典がありましたし、聖書に書かれていない律法の細則を教えた『ミシュナー』、聖書解釈本の『ミドラシュ』、それらを集大成した『タルムード』、そしてシナゴグの寺子屋で、口頭で教わるラビ(先生)の伝承などがありました。前述の「ミカエル云々…」は、偽典『モーセの昇天』の中に記されています。ユダヤ人たちは旧約聖書の物語を生き生きとした説話で教わり、ペトロもそれに親しんでいましたから、それらが彼の手紙にも顔を出しているのです。

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